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ヒカキンの動画に救われた、1回めの緊急事態宣言。「ヒカキン私を休ませてくれてありがとう」

2020年4月、突然やってきた緊急事態宣言

毎日ニュースを見ていれば、新型コロナウイルスが「かなりやばそう」な事はわかっていた。

我が家は当時保育園の年長だった娘と私、そして会社員の夫の3人家族。もしも緊急事態宣言が発令されて、保育園にも登園できない事になったら…在宅ワークの私が、娘の面倒をみる事になる。

かわいい娘と一緒にいるのは、何よりも幸せだ。
でもその幸せを作るためには、大金ではないにせよ私の稼ぎも必要。

家に子どもがずーっといる状況で、私は仕事ができるのだろうか?
夫も相当心配してくれていた。「自分だけ出社するのが申し訳ない」、とまで言っていた。

そして本格的な登園自粛へ

園側も働くお母さん達に対して、最大限配慮してくれていたと思う。なんとか子どもの心配をせず、仕事ができるようギリギリまでいろいろな努力をしてくれていた。

それでも緊急事態宣言が発令されてしまえばエッセンシャルワーカーでもなく、在宅ワークの私は「登園させます」とは言えず、2人っきりで外出もできない毎日が始まる。

Nintendo Switchが買えない!

2020年の4月と言ったら、Switchが手に入らないにも程があった。とにかく娘が家で遊べるよう、今すぐにでもSwitchが欲しいのに、抽選に応募してもしても当たらない。

我が家にはテレビで見られる動画のサブスクふたつと、同じくテレビで見られるYouTubeが命綱。とはいえ、動画のサブスクだって飽きる時は飽きる…

どうにか絵本を読んだりお絵描きしたり、娘が楽しめるように工夫した結果、私は全く仕事ができなくなっていた。Switchさえあれば…と思ったが、ネットですぐに買えるSwitchは転売されて7万円にまで価格が跳ね上がっている。

ちょっと抵抗があった“YouTuber”という人たち

今思うと、なぜ“YouTuber”に抵抗があったのか全くわからない。

2020年4月あたりの私は、「あまり子どもにYouTubeを見せたくない」という漠然とした気持ちがあった。なんとなく“YouTubeを見る=悪い事を覚えそう”という、何の根拠もない不安があり、年長の娘はYouTube未体験のまま。

何で“YouTuber”の動画を見ると悪い事を覚える、なんていう発想になったのだろう? 私も年をとってきて頭がかたくなり、新しい文化や新しい職業を受け入れられなくなっていたのかもしれない。

YouTubeを見る習慣がない娘は、緊急事態宣言が発令されてからは、Eテレとサブスクを徘徊してから私の仕事の邪魔をする…という生活が続いていた。

そして私はヒカキンに出会ってしまった

迫り来る締め切りに間に合わない気配を感じつつも、娘の相手でヘトヘトになり夜中布団に転がってSNSを覗いてみると…『卒業式が出来なかったみんなへ、ヒカキンより。』という動画がバズっている。

新型コロナウイルスの影響で卒業式ができなかった子ども達へ、ヒカキンがスーツを着てメッセージを送っている動画だった。動画の中でヒカキンは、「この経験は将来絶対に財産になる、絶対に」と言っていた。

現状に疲れ果てていた私は、卒業式に全く関係ないおばさんなのに号泣してしまった。

ヒカキンだって仕事でやってるって事はわかってるけどさ…ヒカキンいいじゃん

ヒカキンだって動画を慈善事業でやっているわけではない、食っていくためにいろんな企画をスタッフ達と発案して、どうにかハネさせないといけないだろう。

でも例の『卒業式が出来なかったみんなへ、ヒカキンより。』という動画は、収益化していないとの事だった。

嫌な見方をすれば、「それもいい人のイメージを植え付けたいからでしょう?」と言う事もできるかもしれないが、その時ヘトヘトに疲れてSwitchも手に入らずやんちゃ盛りの年長さんとべったりしながら、遅々として進まない仕事を抱えている私の心には思いっきり響いてしまった。

布団の中でイヤホンをし、泣きながらヒカキンの他の動画も見てみた。

ヒカキンは、

  • セブンイレブンのおにぎりベストテン
  • 巨大スライムに飛び込む
  • カップヌードルのいろんな味でチャーハンを作る
  • しまむらで兄のセイキンとかくれんぼをする

などなど、もう年長の娘が夢中になる要素しかない動画を、休む事なくアップしている。

私は「あまり子どもにYouTubeを見せたくない」という謎のポリシーから、こんなに面白いコンテンツを自分から遠ざけていた。

緊急事態宣言中だし、もうヒカキンを解禁しちゃおう!

翌朝、一晩でくるっと手のひらを返した私は「娘にヒカキンの動画を見ない?」と持ちかけ、娘もハイスピードでヒカキンにハマっていった。

「とにかく面白い」

娘が言うには、やってる事も顔も喋り方も効果音も…ヒカキンの全てが面白かったそうだ。いまだにSwitchを手に入れられそうにない我が家に、ヒカキンという新しい娯楽がやってきた。

行き詰まる生活の中でヒカキンがくれた30分の休息

山のようにあるヒカキンの動画は、毎日見てもなかなか消費しきれない。適度に休みをとりながら…とはいえ、娘は連日めっちゃヒカキンを見ていた。

ヒカキン生活も数日を迎え、やっと仕事に手をつけられた私は締め切りに間に合った解放感で猛烈な眠気に襲われ、居間に横になった瞬間に寝ていたらしい。

その間娘は眠る私の横で約30分あるヒカキンの動画をエンジョイしまくっていたため、いつものように「ママ~起きて~」と言わなかったようだ。娘が家にいながら、30分間眠れた。やっと、少し気が緩んだ。

30分の昼寝は、心にも体にもものすごい効果だった。その30分は、ヒカキンがくれた物だ。

私は本当のヒカキンの事は何も知らない、でもヒカキンは私を休ませてくれた

それから気づいた事だが、ヒカキンは子どもが見てもわりと安全なコンテンツだった。

  • 食べ物を粗末にしない
  • ゲーム実況では少し声を荒げる事もあるが、基本的に過激な言葉を使わない
  • 人を褒めるのが上手
  • 飼っている猫がかわいい

当時我が家は2020年2月に、23年間飼っていた猫を亡くしたばかりで、ヒカキン家の猫達にはとっても癒してもらった。

食べ物を使った動画でもそれを粗末にせず絶対に食べ切る姿に、夫もだんだん好感度が上がっていったらしく、どこにも行けない週末に家族全員でヒカキンの動画を見たりした。

娘がヒカキンを見ていてくれれば、家事もできたしご飯も作れたし、仕事も進む。ちょっとだけなら、横になる事も。ヒカキンを見る前なら、全てできなかった事だ。

ポップアイコンとしてのヒカキンに、全力でありがとうを言いたい!

友達の家の小学校4年生の娘さんやその友達は、「ヒカキンて面白いけどもう見ないよね~」なんて言っているらしい。高学年に近づいてきて、“ヒカキン離れ”が起こっているそうだ。子どもの成長は著しいなあと、その話もとても微笑ましく聞かせてもらった。

でも彼女達ももっと小さい頃は、めいっぱいヒカキンで笑っていた。

そういった興味の対象の変化もあるだろう、これからヒカキンより面白いYouTuberがたくさん出てくるかもしれない。

とうとう我が家でもSwitchを手に入れて、娘もお気に入りのゲームに夢中になったりしている。意外と“ヒカキン離れ”する日は、早いのかもしれない。

でも、2020年の1回目の緊急事態宣言の時に、ヒカキンは私を休ませてくれた。何となく敬遠していた“YouTuber”に身も心も救われ、家族で楽しむ新しいコンテンツを手に入れた。

これから我が家の娘も、いつか“ヒカキン離れ”していくだろう。でも私はイレギュラーすぎたこの数年を、絶対に忘れない。その記憶の所々に、ヒカキンがちらちらと見え隠れする。

娘がヒカキンを見なくなったとしても、私はたまにヒカキンの動画を再生すると思う。それは、あのギリギリの生活の中で笑いと休息をくれた恩人に会いに行くためだ。

この記事のライター:ふじもとつるり

Webライター、エッセイストをしているママです。 2020年に23歳の猫を天国に見送ってからは、7歳の女子と夫の3人暮らし。 里なし・ワンオペ育児の経験を活かして、いろんなエッセイを綴っていきたいです。Instagramアカウント:sweetaiai_

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